腰痛
ひと言で「腰痛」といっても、その原因は多岐に亘り、又原因不明の腰痛も多いのです。
人類が「二本あし」歩行になって、その姿勢からくる負担は腰仙椎部(腰の下部)に集約され、この部に腰痛の原因の多くが存在する現実があります。
腰痛は人類にとって二本足歩行をする限り、宿命だとよく言われますが、この千差万別の症状を的確にとらえ分類するのはなかなかタフな仕事です。
年齢や職業、急性、慢性、外因あるいは内因性等で分類する事もできますが、ここでは原因別に腰痛を分類して具体的な治療手技を写真を使って述べてみたいと思います。
@急性腰痛症(ギックリ腰)
重量物を持ち上げようとしたり、中腰で何げなく軽い物を持とうとした時などによくおこす。 筋肉と筋膜を傷つけており、スポーツでの腰部捻挫もこれに含まれる。
筋膜伸張法 |
テーピング |
A椎間板ヘルニア
スポーツ選手や腰に負担のかかる職業に多い。30才代に最も多く、
中高年にあっては椎間板の変性が基礎にあり、長時間のオーバーユースからくる場合が多い。
しばしば坐骨神経痛を伴う。
ラセーグ検査法 |
L3にヘルニア |
正常な椎間板とヘルニアを持つ椎間板 |
カイロ手技 |
ヘルニアテスト |
二点同時弛緩指圧法 |
坐骨神経痛指圧 |
アジャスト |
B脊椎分離症
陸上競技、柔道、重量挙げなどのスポーツ選手に高頻度にみられる。
又少年スポーツ群にも多くみられる。
これは成長停止時前の発育期でのスポーツによる繰り返し応力、特にひねりの動作による疲労性骨障害と考えられている。
先天的に分離をもつケースも多い。
分離症のアジャスト |
ストレッチ |
C脊椎すべり症
Bの分離症が進行すると後方の椎間関節の固定力がなくなり、それに加えて、その部位の椎間板に変性が起きると分離椎体が下位椎体の上を前方にすべり出してゆく。
椎体の1/3以上すべると坐骨神経痛が一層強くなり椎体固定手術を考えねばならないかもしれません。
すべり症のアジャスト |
ストレッチ |
D腰痛症
X線像やMRI像上に何ら問題はなく原因の特定ができない腰痛。 意外に多いのです。
大腰筋ストレッチ |
直圧法 |
腰痛体操 |
E姿勢性腰痛
不良姿勢によるものが多い。
腹臥位での読書中に疼痛を発症する例に代表される。
F椎間板性腰痛
椎間板に何らかの変性がおき、例えば中腰・坐位・前屈位などで、椎間板内圧が亢進すると腰痛がおこる。
椎間板の変性とは水分が減り柔軟性が失われることで、加齢やオーバーロードが考えられる。
椎間板内圧軽減法
G椎間関節性腰痛
腰椎後屈位(腰椎前弯増強)を持続させると椎間関節内圧が亢進し、そこに器質的異常がなくても疼痛がおこる。
肥満や妊娠後期にみられる。
腰椎ストレッチ
H椎間孔狭窄症
加齢による椎間板の変性で椎間板が薄くなったり、椎体そのものが変形し(楔状化や扁平化)骨棘を生じたりすることにより神経の出口である椎間孔を狭める。
このことにより、神経根は圧迫され下肢に坐骨神経痛を発現させる。
左椎間孔開放指圧法
I成長痛
学童から思春期にかけてよくみられる特有の腰痛。
骨の成長と筋肉等軟部組織の成長とのアンバランスが原因と考えられるが、スポーツの部活動に励む学童にこの腰痛がみられるのは、このアンバランスがスポーツにより一層きわだつためといえます。
J脊椎カリエス
昔は、この症例はたいへん多く、「背中が痛い」といえば脊椎カリエスをまず疑えといわれたものですが、現在結核の感染頻度は著しく減少しており、本症状も激減している。
K化膿性脊椎炎
血行性感染によって軟骨終板下に初期病巣をつくる。
最初は比較的ゆるやかな発症ではじまり、腰背部痛と軽度な発熱が多いが、激烈な発症では高熱と激痛のため体動すら困難となります。
L関連痛としての腰痛
尿管結石や腹部大動脈瘤そしてガンなど、他科疾患による関連痛がよくあります。
充分気をつけ誤診のなきよういつも心して診察に当たらねばと戒めにしております。
以上腰痛の代表的な症状を挙げましたが、このほかにもヘルペスウイルスによる腰部神経痛や坐骨神経痛といった耐え難い疼痛を発するケースもあり、列挙すれば、あるいは又、症状を細分化してゆけばとても紙幅が足りません。次の機会に譲ります。
神経検査について
先ず最初にギックリ腰や椎間板ヘルニア、そして椎間孔狭窄症等で必らず問題になる殿筋や下腿への坐骨神経痛があります。
これはなかなか厄介な症状で腰そのものの痛みは減少しても、あるいはほとんどなくなっていても、頑固に残るケースが多いのです。
これらに治療に当たっては「どの神経根ですか?脊柱のどの高さ(レベル)ですか?」という判定をするために腰痛に直接関係する神経についてに述べてゆきます。
第3腰髄神経(L3)は第3と第4腰椎の間の椎間孔を通ります。そこから大腿前面を下り大腿前面の皮膚の知覚とその筋を支配しています。更に膝蓋腱反射を司っています。
よってL3で圧迫があると大腿前面にトラブルを生じます。
第4腰髄神経(L4)は第4と第5腰椎の間の椎間孔を通っています。支配している筋群と腱反射はL3に準じます。
そして下腿の内側の皮膚を支配していますので、その部位への知覚テストでL4の損傷を診断することができます。
第5腰髄神経(L5)は第5腰椎と仙骨の間の腰仙椎を通っています。そこから下肢の後面を走り、ふくらはぎの筋(腓腹筋・ヒラメ筋)に達していて、ふくらはぎの外側の知覚を支配しています。腱反射は持っていません。
しかし、多くの筋の支配に関係しますが、足の母指を持ち上げる長母指伸筋は完全に支配しています。
又、足関節で足を持ち上げる働きをする前脛骨筋の大部分をも支配しています。
最下部の神経は第1仙髄神経(S1)と呼ばれており、仙骨の椎間孔から出ます。
そしてふくらはぎの筋を支配し、下腿前外側の知覚を支配します。ふくらはぎの筋のコントロールでつま先で立ったり、跳んだり、走ったりできます。
最下部の神経は第1仙髄神経(S1)と呼ばれており、仙骨の椎間孔から出ます。
そしてふくらはぎの筋を支配し、下腿前外側の知覚を支配します。ふくらはぎの筋のコントロールでつま先で立ったり、跳んだり、走ったりできます。
神経機能の喪失は歩行・階段昇降・走るなどの機能の喪失をきたすので、これらの機能喪失がないかを調べる神経学的検査は重要です。
神経根が軽度な乃至は中等度に圧迫されると痛みや、ジンジンとした感じ、しびれ感、さらには筋の疲労がおこります。
神経が急に圧迫されたり、長時間の圧迫を受けるとその神経が麻痺し、その神経が支配している部位の知覚がなくなることがあります。
注意して正確に検査する事で腰椎(神経根)の損傷レベルが分かり、更に何が神経に圧迫を与えているのかを考える必要があります。
前述した神経損傷について日常よく使用されるオーソペディックテスト(整形外科的検査)を写真を使って表示しておりますので、自己診断等に使ってみて下さい。
参考文献 | レネ.カリエ著 | 『正しい腰痛のなおしかた』 |
萩島秀男訳 | ||
寺山和雄著 | 『腰背部の痛み』 | |
立松昌隆著 | 『腰痛の診断と治療』 | |
エドワードカールD.C. | 『ガンステッド・ノート』 | |
ジョゼフ・ダネヒューD.C.編著 | ||
増田裕D.C.訳 |